「もう考えても仕方がない」と頭では分かっている。それでも同じ出来事が何度も頭に浮かび、気づけば同じことを繰り返し考えている。そんな経験は誰にでもあるだろう。
この状態は心理学では「反すう(はんすう)」と呼ばれる。

反すうとは、過去の出来事や嫌な感情について、何度も繰り返し考え続けてしまう心の働きである。名前の由来は、牛が一度飲み込んだ草を再び口に戻して噛み直す「反芻」からきている。心も同じように、一度終わったはずの出来事を何度も取り出しては噛みしめてしまうのである。
一見すると、「問題を解決するために考えている」のと同じようにも思える。しかし、実際には違う。問題解決には新しい視点や具体的な行動が伴う。一方で反すうは、同じ場面を何度も再生し、「あのときこう言えばよかった」「なぜあんなことをしたのだろう」「相手はどう思っていたのだろう」と堂々巡りを繰り返すだけである。結論は出ないまま、気持ちだけが疲れていく。
厄介なのは、本人も「考えても仕方がない」と分かっていることである。分かっているからこそ、「気にする自分が悪い」「こんなことでイライラしてはいけない」と自分を責め始めることも少なくない。しかし、それは新しい反すうを生み出すだけである。
反すうを止めようとして、「考えないようにしよう」と努力するのも、あまり効果的ではない。人は「考えない」と意識するほど、その対象を思い出してしまうからである。
では、どうすればよいのだろうか。
まずは、「あ、今反すうしているな」と気づくことが第一歩である。内容を分析する前に、自分の状態に名前をつけるのである。それだけでも、頭の中で起きていることを少し客観的に見ることができる。
次に、「今考えても答えは出ない」と区切りをつけることも大切である。無理に忘れる必要はない。「この件は夜に10分だけ考えよう」と時間を決める方法もある。不思議なことに、その時間になる頃には「もういいか」と思えることも少なくない。
そして、意識を現在の行動へ戻すことである。散歩をする、コーヒーを淹れる、本を数ページ読む、仕事を一つ終わらせる。反すうは頭の中だけで続くため、現実の行動がよい切り替えになる。
反すうは、決して心が弱い人だけに起こるものではない。真面目な人、責任感の強い人、物事を深く考える人ほど陥りやすいともいわれている。
もし今日も同じことが頭をぐるぐる回っているなら、自分にこう声をかけてみてほしい。
「また反すうしているな。」
それだけで十分である。反すうを力ずくで追い払う必要はない。気づいて、少し距離を置き、今できることへ意識を戻す。その小さな積み重ねが、心を少しずつ軽くしてくれるのである。









