先日、出張先での飲み会に参加した。土地勘のない場所での会食ということもあり、どこか開放的な気分になっていたのだろう。気づけばかなりの量の酒を飲んでいた。そして、翌朝、ホテルのベッドで目を覚ました瞬間、愕然とした。どうやってホテルに戻ったのか、まったく思い出せないのである。
財布やスマートフォンは手元にあるし、着替えも済ませていた。外傷もなく、部屋の様子も乱れていない。つまり、問題なく帰ってきて、寝る前の行動もある程度こなしているはずなのに、その一連の記憶がごっそり抜け落ちている。こんな経験は初めてではないが、何度体験しても不安になる。
記憶が飛ぶという現象は、決して「酔ったから仕方ない」と済ませられるものではない。実際、脳科学の観点から見ると、飲酒は記憶の形成に重大な影響を及ぼす。アルコールは、まず理性を司る大脳皮質の働きを抑制する。これにより感情のブレーキが緩み、陽気になったり、怒りっぽくなったりする。さらに酔いが進むと、小脳や大脳辺縁系にも影響が及び、ふらつきや感情の起伏が激しくなる。
そして、最も重要なのが「海馬」の機能低下である。海馬は、短期記憶を長期記憶に変換する役割を担っているが、アルコールによってその働きが鈍ると、記憶の保存が正常に行われなくなる。つまり、出来事自体は経験しているにもかかわらず、それが記憶として脳に定着しないのである。
記憶を失うほどの飲酒は、脳の情報処理の中枢を一時的に麻痺させているということであり、決して軽視してはならない。今回、私は無事にホテルに戻っていたからよかったものの、これがもしトラブルや事故につながっていたらと思うと、ぞっとする。
記憶をなくすほど飲むということは、脳が「もう限界です」とサインを出していた証拠である。これからは、自分の限界を意識し、楽しい酒席でも節度を持って臨みたい。記憶をしっかり残せるような、大人の飲み方を心がけたいものである。