経済産業省が情報処理技術者試験の見直しに着手し、新たな試験区分として「データマネジメント」および「デザインマネジメント」を検討している。この動きは、単なる試験制度の変更ではなく、デジタル社会における人材像そのものを問い直す取り組みといえる。
現在、情報処理技術者試験は応募者数・合格者数ともに伸長しており、特に高度試験の合格者はITサービス業界に多く分布している。だが裏を返せば、DXを牽引するべき人材が、まだ限られた領域にとどまっていることの表れでもある。内田了司課長の言葉にもあるように、ITエンジニアだけでなく、すべての事業会社でビジネス変革を担える人材を育てる必要がある。これは、従来の「ITを使える人」から「ITで変革を起こす人」への転換を意味している。
そのなかでも注目すべきは「データマネジメント」である。膨大なデータが企業内に蓄積される現代において、それを活用可能な形で整え、業務の中核へと昇華できる人材は極めて貴重だ。単に分析スキルが高いだけでは不十分で、データの整備、品質管理、ガバナンス、活用戦略までを統括できる力が求められる。まさに「データマネージャー」は、ビジネスとITの橋渡しをする存在であり、その役割を明示的に評価・認定する試験制度ができることは大きな前進である。
また、「デザインマネジメント」の導入も見逃せない。これは単にUIやグラフィックを意味するものではない。顧客体験を再構築し、価値の創出プロセス全体をデザインする力を問うものである。ユーザーの行動や心理をデータで捉え、仮説と検証を繰り返しながら新たなサービスや仕組みを設計していく。その過程において、データサイエンティストも密接に関与することになるだろう。
今回の試験区分の見直しで特筆すべきは、これらを「ITパスポートの次」に位置づけている点である。つまり、技術者だけでなく、若手のビジネスパーソンや学生を含め、広く門戸を開こうとしている。このような裾野の広がりこそ、今後のDX人材育成の鍵となる。
変革は技術からではなく、人から始まる。新たな試験制度は、次世代のデジタル人材にとっての羅針盤となるだろう。そして私たちデータサイエンティストもまた、こうした変化の渦中で、学び続け、越境し続ける存在でなければならない。