AIの知識が一部の専門家だけのものだった時代は、すでに過去の話になりつつある。生成AIの登場と急速な普及により、我々の生活や働き方そのものが大きく変わり始めている。日常の業務においても、AIの仕組みを理解し、適切に使いこなす力が求められており、もはやAIは「特別な技術」ではなくなった。そして、ついに日本を代表する総合商社・三菱商事が全社員にAIスキルの習得を義務付け、管理職への昇進条件として「G検定」の取得を課すという方針を打ち出した。
G検定とは、日本ディープラーニング協会(JDLA)が実施する資格試験であり、AIやディープラーニングの基本的な理解力を問う内容となっている。これまでこの検定は、AIに関心のある技術者や情報系の学生などが受けるものという印象が強かった。しかし、三菱商事のような伝統的かつ非IT系の企業が全社員にこの検定取得を促すという事実は、ビジネス社会全体が新たな転換点に差し掛かっていることを示している。AIに関する知識が、もはや“専門家の特技”ではなく、“すべてのビジネスパーソンの基礎教養”になろうとしているのである。
実際、G検定は比較的取り組みやすい内容であり、IT技術者でなくとも理解可能な設計がなされている。AIの基本的な仕組みや活用事例、社会的な課題、法的な問題にいたるまで、幅広くバランスよく学べるようになっている。つまり、この検定を学ぶことは、単なる資格取得以上に、AIを「正しく恐れず、適切に使いこなすための土台作り」になるのだ。
一方で、このような動きは大企業に限られた話であるという見方もある。中小企業では、AIに対する知識や予算、人材の不足などから、なかなかこうした取り組みを推進できていないのが現状だ。さらに、現場では「AIなんてウチの業務には関係ない」「どうせ一部の人が使うものでしょう」といった声も根強い。しかしながら、AIの応用範囲は年々拡大しており、今や人事、営業、総務、企画、製造、物流といったあらゆる分野に浸透しつつある。むしろ、AIが遠い世界の話に感じられる企業こそ、まずは基礎的なリテラシーを身につけることが、これからの持続可能な成長の第一歩となるだろう。
そして、重要なのは「資格を取ること」自体が目的になってしまわないことだ。G検定をはじめとする資格試験は、あくまで学びの一つの手段である。本当に求められるのは、AIについての基礎的な理解を持ったうえで、それを自らの業務や生活にどう活かしていけるかを考える力である。AIが得意とする処理や分析を上手く使い、人間にしかできない判断や創造の部分に集中できる環境を作っていく。そうした発想の転換と実践こそが、これからの時代を生き抜くうえで不可欠な力になる。
G検定が「特別なもの」から「当たり前のもの」へと変わっていく時代。今後、他の大企業もこの流れに続く可能性は高い。そして、そう遠くない未来には、大学生の就職活動においても「G検定を持っているか」が一つの評価軸になるかもしれないし、転職市場でも基本スキルとして扱われることになるだろう。
誰もがAIと関わらずにはいられない社会。そんな時代が、もうすぐそこに来ている。いや、もうすでに始まっていると言ってもいい。だからこそ、G検定をきっかけに、まずはAIを知ることから始めよう。それが、自分自身の可能性を広げる一歩となるのだから。