酢語録を書く上で、ネタ探しは常に付きまとう。とはいえ、意識的に「探すぞ!」と気合を入れているわけではない。むしろ、何かの拍子に「これは書ける」とピンとくる瞬間があって、そこで初めてネタになる。だから、日常生活の中でちょっとした違和感や気づきをメモすることが重要だ。メモさえしておけば、後から読み返して思い出すことができる。
たとえば、カフェで聞こえてきた会話、同僚との何気ない雑談、読んだ本の中の一節、あるいは街中で見かけた印象的な風景。そういったものがネタになりうる。「あ、これいいな」と思ったら、すぐにスマホのメモ帳に書き込む。思いついたその瞬間に書かないと、たいてい忘れるからだ。頭の中に残ると思っていても、翌日には「なんかいいこと思いついた気がするんだけど……なんだっけ?」という事態になりがちだ。
しかし、問題はここからである。
せっかくメモしても、時々どうしても思い出せないものがあるのだ。
先日、飲み会の席で会話を聞きながらメモを取った。後日、そのメモを見返してみると、そこにはたった一言だけ書かれていた。
「学びしろがあるって感じ」
……で、何の話だっけ?
もう完全に記憶が飛んでいる。どんな文脈でこの言葉が出てきたのか、誰が言ったのか、そもそも自分が言ったのか、それとも誰かの言葉を拾っただけなのか、まったく思い出せない。メモを取ったということは、その瞬間は「これ、いいこと言ってる!」と思ったはずだ。でも、時間が経つと何の話だったのかが霧の中になってしまう。
ここでいくつか仮説を立ててみる。
① 知人が誰かの成長を褒めていた話だったのかもしれない。「まだまだ伸びしろがある」というような意味で、ポジティブな文脈で使われていたのでは?
② 逆に、「お前、まだまだ足りてないな」という遠回しなダメ出しを受けていた可能性もある。
③ あるいは、完全に別の話題で、仕事の話をしていたのかもしれない。
どれもあり得そうだが、肝心の真相にはたどり着けない。
ネタ帳として書き残したはずのメモが、もはや自分への謎解き帳になっている。こうなると、ネタとして活用するのはほぼ不可能だ。だが、こうして「思い出せないこと自体をネタにしてしまえ!」という発想に切り替えれば、それもまたひとつの酢語録のテーマになる。
学びしろはある。けれど、それを思い出せるかどうかはまた別の話。
