「涙とともにパンを食べた者でなければ、人生の味は分からない。」
ドイツの詩人・劇作家ゲーテの言葉である。この言葉には、さまざまな解釈がある。単純に「苦労を経験しなければ人生の本当の味は分からない」という意味にもとれるし、「悲しみや挫折を知った人こそ、人生の本質を理解できる」とも考えられる。あるいは、「涙とともに食べるパン」の味こそが、人生のリアルな味なのかもしれない。
仕事で大きな失敗をした日、あるいは誰かとの関係がうまくいかずに落ち込んだ日、そんなときに食べるパンは、やけに味気なく感じる。何を食べても美味しくない、そんな経験をしたことがある人も多いだろう。一方で、長い時間努力してきたことが報われた日、何かを乗り越えた日には、同じパンでも驚くほど美味しく感じることがある。パンそのものの味が変わったわけではない。ただ、自分の心がその味をどう受け止めるかが違うのだ。
つまり、人生の味というのは、食べ物そのものの味ではなく、どんな気持ちでそれを口にするかにかかっているのかもしれない。嬉しいときに食べるパンは格別だし、悲しいときに食べるパンには、苦みがある。でも、その両方を知ってこそ、人生の味わい深さが分かるのだろう。
苦しさを知ったからこそ、幸せの味が分かる。涙を流したからこそ、笑顔の価値が分かる。結局、人生の味というのは、甘いものだけではなく、苦みや塩辛さ、時には酸っぱさも含めた“フルコース”なのだろう。どれか一つだけでは、きっと物足りない。
とはいえ、だからといって、積極的に「涙とともにパンを食べたい」とは思わないのが本音だ。できるなら、美味しいコーヒーとともに、温かいパンを食べたい。苦い経験も、あとから振り返れば「いいスパイスだったな」と思えるけれど、できればそのスパイスは控えめであってほしい。
それでも、またいつか涙をこらえながら食べるパンの味を思い出す日が来るのかもしれない。そのときはきっと、「ああ、これが人生の味ってやつか」と、少しは余裕をもって噛みしめられるように。
……とか言いながら、今日の朝ごはんは、焦がしたトーストだった。人生の味、苦すぎるのも考えものだ。
